2017年5月19日金曜日

■オリーブの樹は呼んでいる


El Olivo


最愛の祖父のために、孫娘はオリーブの樹を取り戻す無鉄砲な旅に出る。

2016年/スペイン
監督:イシアル・ボジャイン
出演:アンナ・カスティーリョ、ハビエル・グラディエス、ペップ・アンブロス
配給: アット・エンタテイメント
上映時間:99
公開:  520()よりシネスイッチ銀座にて公開
公式サイト:http://olive-tree-jp.com





■ストーリー

アルマは養鶏所で働く勝ち気な20歳の女子だ。幼い頃から心を通わして来た最愛の祖父が日に日に衰弱して行くのを心配している。オリーブ農園を営んでいた祖父が誰とも口をきかなくなったのは数年前に遡る。彼が大切にしていた樹齢2000年のオリーブの巨木を息子(アルマの父親)が業者に売ってしまったからだ。最愛の祖父を救うためには、そのオリーブの樹を取り返すことしかないのでは?という考えに取り付かれたアンナは、叔父のアーティチョーク、同僚のラファを巻き込み、無謀な旅に出るのだった。

■レビュー

スペインはバレンシア州から、ドイツのデュッセルドルフへ。行き当たりばったりの無計画な旅である。
無計画なのは、バックパッカーの特権じゃないか?というかもしれないが、アルマの場合他人を巻き込んでる分だけ始末が悪い。こんな無鉄砲が許されるのは、本当に親しい仲か、身内だけだろう。同行の憂き目にあったのは叔父のアーティーチョーク、そして密かにアンナに想いをよせる同僚のラファだ。二人はさながらドン・キホーテの旅に寄り添うロシナンテとパンチョを思わせる。

祖父が大切にしていたオリーブの巨木はオリーブ油を取るための農園の中にあった。スペインのオリーブ油はイタリアと肩を並べるか、それ以上の生産量を誇るという。祖父の農園は安いオリーブ油に押され、売り上げが低迷していた。息子(アンナの父親)はそんなことやっていても儲からないと言って、自分の事業を展開する資金のために、祖父が大事にしていた樹齢2000年のオリーブの巨木を業者に売ってしまう。売られたオリーブの樹はどこへ行ったのか?

ニュースで何となく知っていたヨーロッパの経済地図・パーワーバランスがありありと見えてくる。やはりドイツがユーロ経済を牽引しているのだな。売られたオリーブの樹は、イメージアップのためにエコを標榜するドイツの企業が買い取っていたのだ。
ここで映画の背景を知るためにスペインの近年の政治状況を振り返ってみなければならない。1999年のユーロ導入によって、2000年代に不動産ブームに沸くが、(カスティーリャ県、カタルーニャ地方でオリーブの木の伐採がさかんに行われるようになった時期と重なる)2008年にリーマンショックに端を発した世界的な金融危機で不動産バブルが崩壊。(アルマの父親の事業の失敗がそれを表していそうだ)多額の不良債権を抱え、スペインは未だに不況と政治的混乱から脱せずにいる。失業率22%、アルマのような若者層は50%にのぼり、デモが頻繁に起こっているという不安定な状態だ。

流れる風景の中に意識を投じられるようなロードムービーではなく、どちらかというとアルマの無計画ぶりにイライラさせられるのだけど、それ故にか目当てのオリーブの樹に再会し、幼い頃の想い出がよみがえるシーンに胸が熱くなった。SNSを駆使した活動家の応援は、少々ご都合主義にも感じたが、現実は案外こんな風に広がって行くかもしれない。何か行動に移さなければ、何も始まらない。アルマの無鉄砲ぶりも時には思いもよらない展開を生むということだろう。
ロードムービーと書いたが、本質は家族の再生の物語であり、スペインの未来、いや人類の未来への楽観が描かれている。

カネコマサアキ(★★★)


2017年ゴヤ賞新人女優賞受賞
2016年ブリュッセ映画祭観客賞受賞
2016年ラテンビート・フィルムフェスティバル観客賞・主演女優賞受賞