2015年4月28日火曜日

国際市場で逢いましょう

朝鮮戦争から現代へ、激動の時代を生きた男とその家族の物語。

국제시장(国際市場)

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2014年/韓国
監督:ユン・ジェギュン(『TSUNSMI-ツナミ-』)
出演:ファン・ジョンミン(『新しき世界』)、キム・ユンジン(『ハーモニー心をつなぐ歌』、オ・ダルス(『10人の泥棒たち』、 チョン・ジニョ ン(『7番房の奇跡』、チャン・ヨンナム(『チング2 永遠の絆』、ラ・ミラン(『ソウォン/願い』)、キム・スルギ(『怪しい彼女』)、チョン・ユンホ(東方神起)
配給:CJ Entertainment Japan
上映時間:127分
公開:5月16日(土)、 ヒューマントラストシネマ有楽町、シネマート新宿ほか全国順次ロードショー

   ストーリー
 朝鮮戦争の最中、興南波止場には膨大な数の難民が詰めかけていた。家族と共に撤収する船に乗り込もうとした少年ドクス(ファン・ジョンミン)は、おぶっていた妹の手を離してしまう。父は「今からお前が家長として家族を守れ」とドクスに言い残すと妹を捜すため下船していった。
 ドクス一家は釜山へ辿り着き、国際市場で店を持つ叔母のもとに身を寄せる。靴磨きをしながら家計を助けるドクス。青年になっても肉体労働で懸命に家族を支えるが一家の暮らしは貧しいままだった。そんな折、弟の学費を工面するため、西ドイツの炭鉱労働の出稼ぎ鉱員に応募。親友とダルグ(オ・ダルス)と共にドイツに渡る。炭鉱の仕事は過酷を極めるが、そんな中、看護師として派遣されていた美しい韓国人ヨンジャと出会う・・


   レヴュー
 韓国・釜山で暮らすドクスは、長年連れ添った妻、子や孫たちに囲まれて幸せそうだ。しかし、彼の人生は、朝鮮半島の激動の歴史そのもの。ドクスの回想を通して、一家を支えながら懸命に生き抜いた姿と、家族の絆を描いたのがこの作品だ。
 第二次大戦後、朝鮮半島は日本の占領から解放されるが、惨苦の歴史はその後も続く。朝鮮戦争は半島と多くの家族を分断することになり、この物語もそこから出発する。少年ドクスは、南へと避難する途中で妹の手を離してしまい、父は見失った妹を探しに戻り家族は離散。罪悪感と悲しみに苛まれるが、「家長として家族の守れ」という父の言葉を胸にドクスは必死に働き時代を生き抜いていく。「漢江の奇跡」と言われる韓国の経済発展の以前、苦労の耐えなかった世代を描いた本作は、涙あり笑いありで、苦悩の歴史を振り返るというストーリー展開もあって、本国で大ヒットとなった。 
 また、この作品が感動的なエピックとなったのは、主演のファン・ジョンミンによるところも大きい。ドクスという人物像が、ファン・ジョンミンという幅広い役柄をこなす卓越した俳優によって演じられたことで、観客に大きな共感をもたらしたと思う。
 劇中、実在の人物が登場し、ドクスとの出会いが演出されているのも一興。国産車を作ってみせると言う、若き日の現代自動車の創業者や新しい生地を探す、のちの世界的ファッションデザイナー。また、実在の歌手でベトナム戦争に従軍したナム・ジンがドクスを助けるというシーンも。映画初出演のユンホ(東方神起)が全羅道訛りで明るいキャラクターを演じているのも見どころ。

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 物語には、西ドイツへの炭鉱労働者と看護師の出稼ぎ事業、ベトナム戦争への従軍、民主化宣言後まで続いた国民儀礼の様子、離散家族を探す番組のエピソード等が盛り込まれている。私たち日本人には、朝鮮半島の歴史を知る機会になるだろう。タイトルになっている「国際市場」は戦後、避難民たちが生計を立てる場となり、庶民の日常生活を支えた需要な場所。その様子が再現されていて、人々の熱気も伝えている。(★★★ 加賀美まき)



2015年4月23日木曜日

あの日の声を探して


あの日の声を探して
The Search

2014年/フランス、グルジア

監督:ミシェル・アザナヴィシウス(『アーティスト』)
出演:ベレニス・ベジョ(『アーティスト』『タイピスト』)、アネット・ベニング(『キッズ・オールライト』『バグジー』)、マキシム・エメリヤノフ
配給:ギャガ
公開:424日よりTOHOシネマズシャンテ、新宿武蔵野館

『アーティスト』のアザナヴィシウス監督が描く、言葉を失った少年と女性の交流


●ストーリー

1999年、ロシア軍が侵攻したチェチェン。少年ハジは目の前で両親をロシア兵によって殺され、ショックで声を失う。その後、ハジは幼い弟を見知らぬ家に預け、町へたどり着いた。一方、チェチェン紛争の調査に来たEU職員のキャロルは、その悲惨な状況と世界の無関心に心を痛めていた。街角でハジと出会ったキャロルは、彼の面倒を見始める。また、ロシアでは青年コーリャが強制入隊させられた軍隊の中で、少しずつ心が壊れて行き始めていた。


●レヴュー


佳作であるものの、アカデミー賞を大量受賞するほどではない白黒のサイレント作品『アーティスト』で、作品賞や監督賞を受賞したフランスのミシェル・アザナヴィシウス監督。さて、受賞後はたいてい監督には、“ご褒美”として好きな題材を選べるものだが、それで彼が選んだのが、1948年のフレッジ・ジンネマン監督による『山河遥かなり』のリメイクだった。このオリジナルは未見だが、ナチスの収容所で母と生き別れになった少年が、母に巡り会うまでと、米軍GIとの交流だという。アザナヴィシウス監督は“リメイク”というより、これはあくまで作品の着想とし、現代に通じる映画として新しいストーリーを作り上げた。

一方的に“勧善懲悪”を語るのが難しい現代。この『あの日の声を探して』では、戦争で両親を亡くした少年、調査に来た女性職員、そして若いロシア兵士の3人の視点で語られる。これは戦争が起きた時の3つの立場の象徴でもあるが、『山河遥かなり』には、このロシア人兵士にあたる視点はない。舞台はチェチェンだが、これは戦争や侵略、迫害が起きる以上、世界のどこでも起こりうるできごとなのだ。“戦争”の原因や理由についてはここでは触れることなく(それはまた別のテーマの話だ)、自分の意思とは関係なくそこに放り込まれた人たちが、殺すも殺される側もどうなるか、ということを描きたかったからだ。

実際、戦争の場では、どれだけの人が自分の意思で動いているのか。ほとんど誰もいないはずだ。命令を下すのはそこにいないわずかな人で、戦っている双方の兵士でさえ、戦わなければ自分が死ぬので相手を倒そうとしているにすぎない。新しく付け加えられた青年ロシア兵コーリャの設定は、ロシアの都会で暮らす暴力とは疎遠な青年が、彼にとっては非現実的な設定の場に送り込まれて、次第にそれに“慣れていく”過程を盛込みたかったからだろう。陰湿な軍隊でのイジメ、耐えきれずに自殺する友人、基地に送り込まれて来る死体袋、実戦では怖くて民間人にも銃を向けてしまう。そしてそれを通り越して、人の死に鈍感になっていく…。キューブリックの『フルメタル・ジャケット』にも通じる世界だ。

しかし3人の登場人物のなかでも、私たちがもっとも共感しやすいのが、物語の実質的な主人公となるキャロルだろう。EU職員の彼女は“そこ”で起きていることに心を痛め、何とかしたいと願っている。しかしできることは、ほとんど何もないのだ。ここでも、戦地に近い場所で悲惨な状況を見ているが、電話1本で平和な日常の実家のパリにつながる。同じ世界なのに、まったく違う世界が同じ時間を共有している違和感。現地の避難民にいくら同情していても、彼女が暮らす世界から同情するしかない。そんな姿は、テレビのニュースで世界の悲惨なニュースに心痛めながらも、どうすることもできない私たちと一緒だ。調査機関の働くキャロルができるのは、それを報告することだけ。アネット・ベニング扮する赤十字の職員にグチをたしなめられるシーンがあり、それは酷だろうとも思うが、ある意味キャロルのような“良心的な人々”の限界も突いている。

映画の最後は円環構造になって終わるが、これはこのような悲劇が、時と場所を変えても、永遠に続くことを示している。憎しみや闘いの連鎖は、1994年の傑作マケドニア映画『ビフォア・ザ・レイン』(必見!)のような円構造を持つが、ここでもそれが描かれている。が、この監督特有の、ウェットというかベタな語り口がどうも僕とは相性が悪く、いい映画だとは思うが、正論過ぎて、もう少しひねりが欲しかったかなと思う。ということで★★★


●映画の背景

ロケが行われたのはグルジア(最近、呼び名が「ジョージア」に変わったようだが)。トビリシ郊外にある兵舎、グルジアの町、カフカス山脈で難民キャンプのロケも行われた。

2015年4月8日水曜日

サンドラの週末


ダルデンヌ兄弟 × M・コティヤール 異色の組合わせ!

Deux Jours, Une Nuit

2014年/ベルギー、フランス、イタリア

監督:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ(『ロゼッタ』『息子のまなざし』『ある子供』)
出演:マリオン・コティヤール(『エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜』『ダークナイト・ライジング』)、ファブリツィオ・ロンジォーネ
配給:ビターズ・エンド
公開:523日よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町


●ストーリー
金曜日、休職していた職場に復職が決まった矢先に、サンドラは突然解雇を言い渡される。不況の中、社員にボーナスを支給するには、ひとり解雇する必要があるというのだ。しかし同僚の取りなしで社長に会い、月曜日に社員で再投票をし、ボーナスではなくサンドラを選ぶ者が過半数を超えれば、復帰できることになった。サンドラには飲食店で働く夫と、ふたりの子供がいて、マイホームを手に入れたばかり。ここで失職してしまうわけにはいかない。週末の2日間、サンドラは夫に支えられながら、同僚たちを説得して回る。しかし同僚たちにもさまざまな事情があった。

●レヴュー
 ダルデンヌ兄弟×M・コティヤール。かたや過去二度もカンヌ国際映画祭の最高賞であるパルムドールを受賞している、世界トップレベルの監督たち。芸術性は高いが、ドキュメンタリー性の高い非商業映画的な作風だ。コティヤールは『エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜』(07)で、アカデミー主演女優賞を受賞したフランス人女優で、最近は『ダークナイト・ライジング』などアメリカ映画にも進出している。まぎれもなくフランス映画界を代表するスターだ。その組合わせに、最初は「ダルデンヌ兄弟が作風を変えたのか?」と驚いたが、その心配は見事に吹き飛んだ。映画の中のコティヤールは、いつものダルデンヌ兄弟作品の中の登場人物と変わらず、“私たちの身近にいる人”。“すっぴん”で労働者階級の主人公を演じ、本作で本年度のアカデミー主演女優賞にノミネートされる、高い演技力を示していたのだ。

 しかしこの映画、かなりエグい設定である。従業員16人のソーラーパネルの製造会社。日本でいえば地方の町工場で、従業員はみな地元に住んでいる規模。給料だってそんなに高くはないだろう。だって、サンドラの解雇に同意するボーナスの額が1000ユーロ(約16万円)という、多いんだか多くないんだかという微妙な額。しかし、従業員たちに取っては、喉から手が出るお金なのだ。サンドラが週末を使って、各従業員をひとりひとり訪ねて行くが、ここでサンドラを打ちのめして行くのは、みなそれそれに事情があって、そのボーナスが必要なこと。生活に余裕があるものなんてひとりもいない。サンドラに悪態をつく者もいるが、基本的には悪人はいない。そしてサンドラに投票すると決めた者も、悩んだ末の決心なのだ。自分を支持してくれる人はありがたいが、彼らはサンドラのためにボーナスを断念したのだ。当然、それはサンドラの心に重くのしかかって行く。

 とはいえサンドラにも事情がある。彼女が会社を休んでいた理由はハッキリは明かされないが、鬱を含んでいたことは確かだろう。そこから立ち直って、ようやく社会に復帰するというときに、「社会から必要とされない人間であること」を突きつけられるのは、かなり酷なことだ。しかし、従業員の中には、そうした精神の病に関して、理解がない者もいるし、そんな人間が復帰したら迷惑だ、という考える者もいない訳ではない。断られるたびにサンドラの心は傷ついていき、サンドラを擁護してくれる者もがいれば、気力を取り戻して行く。

 「和を重んじる」日本なら、こうしてサンドラがひとりひとり説得して行く、という設定はないかもしれない。「自分の運命は自分で切り開く」ことはしないだろう。しかし、だからといって、サンドラに共感できない人はいないだろう。結末は書けないが、サンドラはこの週末のできごととその結果を通して、人間の尊厳を取り戻したはずだ。(★★★★前原利行)

2015年4月2日木曜日

マレーシア映画ウィーク


マレー系少女と華人少年の恋の行方を描く『細い目』(2004)
多言語ゆえの多色字幕版も上映予定


あの名作にまた会える!


マレーシア映画の特集といえば2年前の「シネ・マレーシア」が記憶に新しいが、また別の主催者による「マレーシア映画ウィーク」と題された特集上映が4月11日〜19日、シネマート六本木で開催される。

今年は2005年の東京国際映画祭で「アジア映画賞」を受賞し、旋風を巻き起こした『細い目』の日本初上映から10年目の年に当たる。監督のヤスミン・アフマドはマレーシア・ニューウェイブを牽引して来た中心人物だったが、2009年に惜しくも急逝。しかし、彼女の残した作品群は色褪せるどころか、民族・宗教対立の融和が求められる時代にその輝きを増している。




ジャパン・プレミア4作を含む充実の14プログラム。食文化の講座も。


ヤスミン監督の名作「オーキッド・シリーズ」『タレンタイム』(’09)『ムアラフ改心』(’08) を中心に、ホー・ユーハン監督『心の魔』(‘09)、ジェイムズ・リー監督『黒夜行路』(‘09) など過去に評判となった作品や、ピート・テオが企画した15人の監督による短編集『15Malaysia』('09)、昨年の東京国際映画祭で大評判となったエドモンド・ヨウ監督『破裂するドリアンの河の記憶』('14) など近年新しい動きをみせるインディペンデント作品を一挙上映。『タイガー・ファクトリー』('10)で注目されたウー・ミンジン監督の最新作『盗人の第二の人生』('14) はジャパン・プレミアだ。そのほか、食文化に焦点をあてた「マレーシア文化講座」(おみやげ付き)を含む全14プログラムがラインナップされている。

オーキッドを演じたシャリファ・アマニほかゲストも多数来日する。多民族国家マレーシアならではの多言語・多文化社会、その多様性から生み出される刺激的な映画表現をぜひお見逃しなく

久しぶりの上映になるホー・ユーハン監督『心の魔』(2009)

日本初上映のウー・ミンジン監督最新作『盗人の第二の人生』(2014)
昨年の東京国際映画祭で大評判となった
エドモンド・ヨウ監督の『破裂するドリアンの河の記憶』(2014)
『黒夜行路』(2009)のジェームズ・リー監督が企画した
オムニバス・ホラー『スリードア・ホラーズ』(2013/2014)

シャリファ・アマニ監督作の短編『イヴ』(2013)は
ピート・テオ企画の『15Malaysia』(2009)と同時上映



期間:411日(土)~19日(日)
会場:シネマート六本木
入場料 前売1400(別途WEBサービス使用料・発券料が必要) 
    当日1700
主催 : 混成アジア映画研究会 / マレーシア映画文化研究会 /ODD PICTURES


そのほか韓国・台湾・香港映画の特集上映も


「マレーシア映画ウィーク」はこの夏惜しまれながら閉館されるシネマート六本木の「ありがとうシネマート六本木 —劇終— THE LAST SHOWのプログラムの一環として開催される。そのほか「韓流祭」(現在上映中)、「台湾シネマコレクション2015418日~58日)、『韓流シネマコレクション2015」(5月9日より)「香港電影天堂 最終章」(未定)も企画されている。アジア映画フレンドリーな映画館が無くなるのは本当に残念だが、素晴らしいラインナップなのでこちらも要チェック。詳しくは特設サイトで。


ありがとうシネマート六本木 —劇終—THE LAST SHOW